子宮から考える不妊治療

子宮から考える不妊治療

2021年6月11日
出産風景

リピートブリーダーの治療法

一般に子宮や卵巣に異常がみられないのに3回以上授精しても妊娠できない牛のことをリピートブリーダーといいます。

どの農場にもこのリピートブリーダーがいるため、なかなか種が付かず頭を悩ませている方も多いかもしれません。リピートブリーダーの原因としては色々あると思いますが、今回は「子宮」に着目した治療法をご紹介したいと思います。実は私とチームを組んで地域診療を行っている深水獣医師が、日本で初めて血小板治療法をリピートブリーダーへの治療に応用し、現場で良好な成績を得ているのです。以下、深水獣医師の文章です。


初めまして。熊本家畜診療所の獣医師、深水研二と申します。

普段、私が和牛、乳牛、F1と繁殖治療してきて手応えを感じている子宮内の治療法についてお知らせしたいと思います。

子宮の検査といえば、エコー・直腸検査、メトリチェック、膣鏡検査があり、いずれも子宮内膜炎の有無を調べるものになります。しかし、近年、子宮内膜炎以外にも、受精卵の分裂成長に必要な因子が不足している子宮の病気があることがわかってきました。この牛のことを因子低下牛と名付けます。

和牛の因子低下牛は未経産・経産関わらず、全体の25%程度(乳牛はさらに多い)存在しているといわれています。因子低下牛の治療は単純に不足している成長因子を補ってあげればいいのです。

この成長因子を多量に含むのが血液中の血小板であり、血小板を処理したものを子宮内に注入してあげることで複数の成長因子を全体的に補うことができると考えられます。この因子低下が疑われる個体自身の血液から血小板を分離し、それを子宮内へ注入する方法を血小板治療と言います。

1. 現場での試験結果

実際に発情周期が約21日であり、子宮内膜炎がない黒毛和種の中から、3回以上授精をしても妊娠してない牛や前回の妊娠まで複数回授精した牛を29頭用いて、血小板治療を行いました(既存の治療を併用した例も含む)。その結果、血小板治療後初回授精で受胎した牛は29頭中9頭(受胎率31%)。治療後3回目までの授精で受胎した牛は残りの19頭中6頭でした。

また、菊池管内の2件の酪農家さんでランダムに選んだ牛で血小板投与群と無投与群で受胎率を調べた結果、血小板投与群では10〜25%(月単位)の受胎率向上が確認できました。

菊池管内の酪農家さんでの試験結果

2. 血小板の分離方法

①リピートブリーダーからの採血

母牛の頸静脈から、テルモ血液バッグCPDA(テルモ株式会社)を使用し、300ml程採血します(日々のニュースで紹介しています)。

②血小板の分離

持ち帰った血液を50ml遠心管に分注し、黒毛和種の場合は300×g(遠心力)30分、乳牛は200×g 30分遠心分離します。分離後、上層の血漿と血小板を含む中間層をパスツールピペットを用いてできるだけ集めます。この際、赤血球を多少吸ってしまってもいいので、中間層をできるだけ集めるのが、コツです。
だいたい100mlの血液から血漿と中間層を合わせたものが50mlほど集まります。これを1000g×10分遠心分離後、上から3分の2の血漿を捨て、残り約15mlを使用します。

遠心分離後の血液
遠心分離後の血液。上層に血小板が多く含まれる。

③ 凍結と融解

血小板を破砕して因子を液中に出すために、-80℃と37℃で凍結融解を3回繰り返します。これを液状チオグリコール酸培地か血液寒天培地で雑菌混入が無いか確認し使用まで-80℃冷凍庫で保存しておきます。

処理後の血漿板
処理後の血小板

④ 子宮内への血小板注入

発情が来たら、人工授精後36〜48時間(受精卵移植の場合は発情後2〜3日)に血小板を子宮内薬液注入します。血小板を融解する時は、使用直前に40℃のお湯に浸します(約10分)。その後、50mlシリンジで無菌的に吸い、子宮内薬液注入と同様の方法で子宮体部に注入し終了となります。1回の採血で血小板治療法の3回分の血小板が集められます。

血液処理風景

料金は1回の採血から血小板処理までで1万円(税別)頂いております。安福久や美国桜、白鵬85の3など育種価の高い母牛ほど繁殖障害が多く、リピートブリーダーになりやすい傾向にあります。もし、この血小板治療法に興味がある方は、このホームページのお問い合わせ、又は深水(v07110@gmail.com)までご連絡下さい。