新築牛舎

新築牛舎

2021年1月23日

哺乳仔牛

Ⅰ.哺乳法の選択

2010年の春にルーメン家畜診療所を開設し就農したのですが、その当時は完全な肥育農家でした。先ずは、肥育の技術を磨こうと日々努力していたのですが、いつかは繁殖部門にもチャレンジしたいと考えていました。そして2014年より繁殖素牛を導入し念願の一貫経営を開始しました。繁殖を始めるにあたり、最初に選択しなければいけないのが哺乳期の管理法です。産まれた仔牛を生後1週間程度で親から離して粉ミルクで育てる人工哺育(早期母子分離型)と、親にそのまま付けておく自然哺育(親付け型)の二つの方法があります。どちらの管理法も一長一短あるので、どちらが良いのかは一概には言えませんが、私が住んでいる地域では人工哺乳が主流となっており、親付けする方は少ないのが現状です。

私の農場では「自然哺育」を選択しました。自然哺育の一番のメリットは、何と言ってもミルクを飲ませる手間がかからない事です。また、早期に母子を分離しないため子牛にストレスが掛からないのに加えて、好きな時におっぱいを飲めることで人工哺乳に比べて仔牛の発育も良くなるのが特徴です。やはり経営の主体は「肥育」であるため、繁殖部門を始めてもあまり労力をかけずに一貫経営に移行させ、肥育成績を落としたくないと考えたのです。

ここで、自然哺育のデメリットも考えてみます。第一に挙げられるのは、分娩後の発情回帰が遅く、繁殖成績の低下が挙げられます。分娩後に親付けしているとプロラクチンという泌乳ホルモンが分泌されます。このホルモンは、分娩後の発情回帰に不可欠な生殖ホルモンの分泌を抑制してしまい、繁殖成績を下げてしまうのです。また、人工哺育の場合だと日々の哺乳量を管理者が調節できるのに対し、自然哺育ではそれは不可能です。そのため、日々の乳量や乳質が不安定となり、お母さんのおっぱいが原因である「母乳性白痢」を発症し易くなります。これは母乳が原因なので、治療してもなかなか治りにくく獣医師も頭を痛める下痢の一つで、仔牛のこの下痢が嫌で人工哺育に変えてしまう農場があるほどです。この母乳性白痢を止めるのに一番効果的なのが、母牛を飲ませない(断乳)か、又は飲ませる量を制限することです。

しかし、自然哺育の管理下でこれらを実施するのはかなり難しいのが現実です。これらの自然哺育の問題点を一挙に解決できるのが、制限哺乳舎なのです。制限哺乳舎とは、自然哺育を行いながら、一時的に母子分離を簡単に実現できるような構造を備えた牛舎を言います。母子を分離し哺乳回数を減らすことで、プロラクチンの分泌が抑制されて発情回帰も良くなりますし、仔牛が母乳性白痢を発症したとしても断乳や哺乳量の制限を簡単に行うことができます。また、母牛から隔離されて仔牛専用の部屋にいる間は、スターターを給与しておけば摂取量も上がりさらに発育が良くなるというメリットもあります。

私が獣医師として色んな農場を見てきた中で、分娩舎を建てるならば絶対に制限哺乳舎にしたいと考えていました。実際に牛舎を作る上で、費用を考えると大きな投資となります。その当時、自分なりに熟考し簡単な設計図を作ったのを覚えています。そして、2016年に完成したのが、制限哺乳舎です。

外観
制限哺乳舎

Ⅱ.制限哺乳法の実践

その当時こだわって建てた制限哺乳舎を紹介したいと思います。哺乳期間は3ヶ月間と設定していますので、その間は母子分離せずに親子一対で管理します。親付け期間は、なるべく牛床が汚れないようにと考え、母牛の飼養面積を広く確保してあります。

哺乳

また、親から離す際は、仔牛専用の通路を出入りさせ板で隔離します。写真を見てもらうと分かるように、母子分離した際にも、コンパネを挟むことで親牛は乳を飲ませられませんが、仔牛は見える範囲にいますので安心できる構造となっています。

仔牛

現在の佐々畜産の制限哺乳マニュアルは以下の通りです。

① 生後2週間より慣らし哺乳開始
② 生後20日より制限哺乳(2回/日)
③ 生後60日より制限哺乳(1回/日)
④ 生後90日で離乳

①の慣らし哺乳とは、人が農場内で作業している昼間のみ母子分離を行い夜間は親に付けるという練習の期間です。生後20日経過した時点で、本格的な制限哺乳を開始します。1日2回、10~30分程度母牛に付け、その時間以外は仔牛の部屋で隔離し管理します。

最初のうちは哺乳時間は長くかかりますが、慣れてくれば5分程度で飲み終わるようになります。また、仔牛が下痢気味の時などは、哺乳中であっても強制的に離し哺乳量を制限します。また、制限哺乳期間でなくても仔牛を加療する際には、仔牛部屋に閉じ込めることで、輸液なども簡単に実施できます。

しかしながら実は、もう一つ自然哺育のデメリットがあります。それは、仔牛の体調管理が難しいことです。下痢は落ちている便を確認すれば分かるのですが、風邪などの熱発を早期発見するのは自然哺育では容易ではありません。それに比べて人工哺育の方が飲乳欲や飲み残しなどを観察できますので、早期に異常を発見出来ます。そこで、私の農場では日々のスターターの摂取量を計量するようにしています。そうすることで個体ごとのスターターの摂取量を把握することができ、極端に食べる量が減った時などには検温をすることにより風邪などの早期発見が出来ます。

また、生後3ヶ月経過した時点で離乳するのですが、私の農場の頭数規模では離乳時期が仔牛ごとにバラバラになります。そのため、離乳した時点ではすぐには群飼に移さず、各個体の離乳の時期およびスターターの摂取量が上がるのを待ちます。離乳群のスターター摂取量が1.5kgを超えた時点で隣にある群飼の部屋に一斉に移動します。

このような群編成を実施することで離乳後の下痢などを少しでも軽減できるようなマニュアルとしています。もちろん、仔牛部屋にも専用の飼槽や水飲み場が設置してあり、離乳後も単飼である程度の期間管理できるように、十分な広さが確保されています。

つづく