素牛情報と肥育成績の関係

素牛情報と肥育成績の関係

1.はじめに

肥育の質問で多いのが「素牛によって肥育成績がどれくらい左右されるのか?」というものです。簡単に言えば、「素牛で肥育成績はどれくらい決まってしまうのか」という問いです。自分で実際に肥育し、さらに他の肥育農場を巡回指導しながら感じるのが、一般的な肥育農家であれば、素牛で7~8割、後の飼養管理で2~3割ぐらいの比率で肥育成績が決まるのではないかと考えています。それが、いわゆる篤農家になれば、素牛が占める割合が増えると思ってください。優秀な肥育農家というのは、餌も含めて自分の農場の飼養管理が完成しており、それを何年間もぶれることなく継続します。疾病のコントロールさえ順調であれば、肥育成績は、ほとんどが素牛によって左右されるようになるのです。肥育農家によっては、99%素牛で決まるという人もいるくらいです。

2.肥育素牛の選畜

では、そんなに大事な素牛を買う時、肥育農家はどんなところを見て選んでいるのでしょう。これは、人によって様々と思いますが、一番重要視するのは、血統の組合せです。現在の子牛市場では、4代祖まで遡って、記載してあります。自分の農場に合う1代祖、2代祖、またその組み合わせを選抜していると思います。血統の次に大事にしているのが、その牛の表現型だと思います。顔付き、毛肌、姿勢、毛色、体重、角の形など肥育農家の好みは千差万別だと考えられます。その他にも、セリ名簿には、その上場個体の生産農家氏名やその個体の母体の名前、産次数、点数など様々な情報が記載してあります。

血統(種雄牛)別による肥育成績の比較は様々な関係機関でデータを出していると思います。そこで今回この欄では、肥育素牛の血統以外の情報と肥育成績*の因果関係を調べてみました。

*注:ここでは肥育成績を、枝肉重量とBMS No.で捉えることとしました

3.母牛の能力と肥育成績の関係性

ⅰ)産次数

 優秀な肥育農家に聞いてみると、5産目までしか買わないと言われることが多いです。6産目以降だと能力が落ちてしまうということだと思います。しかし一方で、産次数は関係無いという肥育農家もたくさんいることも現実であり、今回その点について調べてみました。

 様々な要因と肥育成績(枝肉重量とBMS)の関係性を調べる上で大事なポイントがあります。それは、肥育技術が確立していないと疾病を含めた飼養管理の要因により肥育成績が左右されてしまうということです。そこで今回のデータは、佐々畜産の肥育成績が安定してきた、2018年1月~2021年6月の外部導入の去勢347頭を用いて分析してみました。

 まず、全347頭の平均枝肉重量とBMSは、それぞれ530.7kgと10.06でした。

 次に、産次数別の頭数**と肥育成績の結果を図-1に示しました。平均枝肉重量に関しては、どの群にも有意差はないという結果になりました。また、平均BMSに関しては、産次数が増えるにつれて、緩やかに下がっているように見えますが、検定上有意差が見られたのは3産目のみでした。3産目に関しては、2、4、6、8、9産目と比べて有意にBMSが高いという結果になりました。

**注:頭数は図中(n= )で示しています。

図-1. 産次数別の肥育成績

ここで、6産目以降を一つの群としてまとめて、5産目以内の群と比較してみました。結果は、図-2で、枝肉重量に関してはすべての群で有意差はないという結果になり、BMSに関しては初産と6産目以降、3産目と6産目以降で大いに有意差があるという結果になりました。

初産、2,3,4,5,6産以降の肥育成績
図-2

 さらに、初産~5産目を1群にまとめて、6産目以降の群と比較してみたところ、BMSに関して初産~5産目の方が有意に高いという結果になりました(図-3)。

1~5産vs6産以降の肥育成績
図-3

結論として、5産目以内の方が、枝肉重量は変わらないが、サシ気は強いということが言えることが分かりました。産次数に関しては、導入の際に自分でも意識して購買しています。よっぽど表現型が気に入った牛以外は、6産目以降は導入することはありません。多分、今回のデータも4産目以内の導入の数が多いのはそのせいだと思います。

また、今回のデータは去勢だけだったのですが、一般的に母牛候補の雌を残すのは3産目が良いと言われています。これは、3産目に産まれた雌を残した方が、子牛の発育も良く、良い育成牛になるという意味です。今回の結果から、3産目の牛が枝肉重量とBMSともに比較的大きくなることが示されており、メスでも同様の結果が出るとすると、3産目の牛は母牛としての能力も高い可能性は大いに考えられ、3産目を母牛候補にすると良いと言う定説と一致する結果となりました。

ⅱ)母牛の点数と肥育成績の関係性

 次に導入牛の母牛の点数別に比較してみました。母牛の点数に関しては、私は導入時には全く気にしていません。しかし、導入時のデータとしては記録していましたので、今回も外部導入の去勢で母牛の点数の記載があった全359頭を対象とし、母牛の点数が80点未満、81点未満、82点未満、83点未満、83点以上の5群で比較しました。結果は下の図-4です。これも一見すると、83点以上の群が他の群と比べて肥育成績が良さそうな感じですが、頭数が少ないため検定上有意差は出ませんでした。83点以上の肥育成績の個体数が今後増えれば、有意差が出る可能性は十分あると思います。

図-4

 さらに、高得点である81点以上(182頭)と81点未満(177頭)の2群に分けて比較してみました。結果は図-5の通りで、平均BMSに関しては有意差はないが、平均枝肉重量に関しては、81点以上の群の方が有意に高いという結果になりました。

図-5

結果から、やはり母牛の点数が高い方が、サシは変わらないが枝肉重量は取れるということが言えると思います。ただし今後、83点以上の親牛を持つ素牛の数が増えてくれば、BMSに関しても有意に高くなる可能性は十分にあると思います。

4.導入時のDGと肥育成績の関係性

 DGとは、Daily-Gainを略した畜産用語で、1日あたりの平均増体量のことを言います。私自身は、導入時にDGは全く気にしていませんが、一般的には子牛のセリ時のDGが、去勢の場合1.0以上が推奨され、DGが高い方が高値で取引される傾向にあります。

そこで外部導入の去勢で導入時にDGの記録があった全382頭を、DGが0.9未満、0.9~1.0未満、1.0~1.1未満、1.1~1.2未満、1.2以上の5群に分けて比較してみました(図-6)。

図-6

結果から、最近の3年間で自分が多く導入しているDGのラインは、1.0以上1.2未満ということが分かりました。

DG別の平均BMSに関しては、どの群にも有意差はみられませんでした。

平均枝肉重量に関しては、分かり易い結果となり、DG1.0~1.1未満と1.1~1.2未満で有意差が出なかったものの、その他のすべての群の組み合わせで有意差が見られました。要するに、DGが大きい群の方が枝肉重量が取れるということが分かりました。

 結果からすると、導入時にDGが大きい個体の方が、サシは変わらないが枝重が大きくなると言えました。しかし、ここで注意点もあります。もちろん、DGが良い方が大きくなるのですが、例えばDGが1.2以上の群でも、あくまでも私が導入する個体は、毛肌にゆとりがある大型の素牛です。配合飼料を多給したような、ずんぐりしたDG1.2ではないのです。過肥の肥育素牛でのDG1.2であればこのような結果にはならなかった可能性が高いと考えられます。

 実際に枝肉重量を確保するために大事なことは、セリの電光掲示板で日齢と体重を見て購買するのではなく、子牛のセリ前に濃厚飼料を多給してある牛なのか、又は粗飼料を多給された腹の出来た伸びのある牛なのかを見分けることです。

優良肥育農家というのは、DGが良いから買うのではなく、気に入った牛がたまたまDG良いというだけなのです。

5.まとめ

 今回のデータ分析から、血統以外の母牛の産次数、点数、導入時DG別での産肉成績の違いが分かりました。みなさんの何か参考になれば幸いです。ただし、生産農家や一貫農家の方への注意点もあります。6産目以降になったら、「すべて母牛を更新して下さい」ということでは決してありません。例えば、5産以内の群と6産以上の群で、平均BMSに有意差があったのですが、10.37と9.13とBMSナンバーで約1しか違いません。あくまでも検定上の有意差であることに留意して下さい。たとえ10産以上の母牛であっても繫殖成績がよく子出しの良い母牛などは是非残しましょう。

また、今回の結果より、肥育素牛の母牛の産次数や点数などで差が出たのですが、選畜の際に血統と表現型や産次数、さらに母牛の点数までこだわると、1日に2~3頭しか導入できなくなってしまいます。あくまでも参考程度にして下さい。しかし、繁殖候補のメスならば、産次数や母牛の点数にまでこだわって導入しても良いかもしれません。

何かご質問のある方は、佐々畜産 HPの 質問コーナーまで宜しくお願い致します。