昼間分娩誘起法

昼間分娩誘起法

2021年6月17日

昼間分娩誘起法とは

「どうしてお産って夜中が多いんだろう?昼間に来てくれればいいのに…。」

なんて思ったことはありませんか?

お産って夜が多いのよ・・・

確かに、通常通りの飼養管理方法で母牛を飼育していると、夜間に分娩を迎えることが多い傾向にあります。しかし、分娩予定日の1ヵ月前より夕方1回だけの給餌に変更すると、昼間に分娩する確率を上げることができます。これを昼間分娩誘起法と言います。お産が昼間にあれば、当然「発見」や「立ち合い」がしやすくなり、分娩時の事故を防ぐことが出来ますし、また、夜間の分娩を少なくすることで、労力を削減できるといった多くのメリットがありますので、その方法をご紹介したいと思います。

昼間分娩誘起法の原理

 分娩は、脳の下垂体から分泌されるオキシトシンという子宮を収縮させるホルモンにより誘発されます。一方、牛が採食するなど活動が活発な時間は、アドレナリンというホルモンが分泌されていて、これがオキシトシン分泌を抑制しています。そのため、通常の給餌方法であった場合、昼間は活動が活発になり易いため、お産が始まることは少ない傾向にあります。そこで給餌を夕方1回だけにしてみると、牛は夜間に採食するなど活動が活発になり、飼槽が空の状態である昼間は活動量が下がってアドレナリンの分泌量が減り、その結果オキシトシンの分泌が増えて、昼間に分娩しやすくなるのです。

昼間分娩誘起法の検証

この原理に則って、実際に昼間分娩誘起がどれくらい可能なのかを、佐々畜産で一貫経営を開始した2017年~2019年12月までの分娩牛のうち、娩出時間が確認できた全68頭を対象として、以下の方法で検証を行いました。

  • 分娩予定日の1ヵ月前より夕方1回給餌に変更。
  • 給餌時間は午後3時 。
  • 翌朝7時に残飼を回収し、夕方の給餌まで飼槽は空の状態で管理。
  • 水は24時間自由飲水とする。
  • 午前6時から午後9時に娩出したものを昼間分娩と見なす。

結果は、全68頭中、昼間分娩は55頭となり、その割合は80.9%(55/68頭)でした(グラフ)。次に、未経産牛(初産牛)では昼間分娩の成功率が低いという話を聞いていたので、これらの試験牛を未経産牛(27頭)と経産牛(41頭)の群に分けて検討しました。結果は、未経産牛および経産牛群の昼間分娩の成功率は、それぞれ81.5%(22/27頭)、80.5%(33/41頭)でした(表)。今回の試験では、未経産と経産の牛群での差はないという結果になり、今回実施した方法で昼間分娩が可能であることが分かりました。

昼間分娩誘起を成功させるためのポイント

①良質な粗飼料を飽食に

 昼間分娩誘起法で大事なポイントは、夜間に母牛が満足するまで食べさせて、昼間の活動量を落とすことです。夜間の飼料摂取量で母牛が満足できずに、空腹ストレスで昼間ウロウロしているようでは上手く行きません。一番簡単なのは良質な輸入乾草を使用することですが、もちろん自家産の草でも構いません。ただし農場内で一番質の良いものを給与して下さい。輸入乾草を用いる場合は、グレードの高いオーツヘイを推奨しています。
 ここでの注意点ですが、オーツヘイなどを単味で給与するのではなく、稲ワラも併用するなど2種類以上の粗飼料を使用することが大事です。また、飽食と言っても朝に山のように残るほど給与しなくても大丈夫です。翌朝、薄っすらと残るくらいで構いません。

美味しそうなオーツヘイ

②分娩1ヵ月前より開始

一般的な昼間分娩誘起法では、分娩予定日の10日~2週間前から1回給餌を開始すればよいと言われています。当初は私の農場でも分娩2週間前より実施していましたが、2つの理由から1ヶ月前に変更しました。

1点目は、分娩前の増し飼いの管理などが上手な農場では、分娩予定日より早く産まれる母牛が見られるからです。胎児の大きさは正常でも1週間くらい早く産まれることも珍しくないのです。よって予定日より1週間早いと考えると昼間分娩誘起の効果が出る前に分娩が始まる可能性があるのです。

2点目は、餌の給与量の問題です。今まで2回給餌していた餌の量を、いきなり1回にして規定量を給与してしまうと、配合飼料を食べ残したり、食滞を起こすなどのトラブルが発生しやすくなります。そこで、夕方1回給餌の初日は1日分の濃厚飼料とオーツヘイを3~4kg程度、稲ワラは飽食から始め、その後、オーツヘイを1日に1~2kgずつゆっくりと増やしていきます。この乾草の増飼の期間などを考慮して分娩予定日の1ヵ月前より開始するようにしているのです。

1回給餌へ変更を分娩1ヵ月前から開始するようにしてからは、昼間分娩がさらに上手に行くようになりました。

③給餌時間を一定に

夕方の給餌時間に関しては、実は午後5時以降が理想的です。今回の検証においても、給与時間をもう少し遅くすれば、昼間分娩の割合はさらに増えると考えられます。しかし、農場の終業時間が午後5時半なので、うちでは給餌時間を午後3時というマニュアルに設定しています。昼間分娩を始める際には、自分の農場内の終業時間や作業マニュアルを考慮し、夕方の給餌時間を無理のない時間に設定することをお勧めします。

それよりも大事なのは、給餌時間を設定したら毎日同じ時間に給与することです。なぜならば、給餌回数を減らすだけでも母牛は強いストレスを感じているのに、これが日によって給餌時間が変わるとなれば母牛にさらに強いストレスを与えることになってしまうからです。また、翌朝の飼槽を空にする時間も重要です。農場に出勤した時点で飼槽内の餌を空にするなど、なるべく早く餌を回収するようなマニュアルにすると良いでしょう。

④分娩舎への移動時期

時期によっては、分娩日が重なり、分娩舎の部屋が足りなくなる場合があります。そうなると、中には予定日付近になってやっと分娩舎へ移動する個体も出てきます。そのようなケースでは、群飼のまま1ヵ月前から1回給餌を始めていたとしても、昼間分娩が上手くいかないような気がします。今回の検証結果でも、午後11時~午前5時までの深夜に娩出している母牛の多くは、1頭部屋への移動が遅かった個体が多い結果となりました。やはり、分娩1ヵ月以上前から単飼でゆっくりストレスなく過ごさせることが、昼間分娩においても大事なことかもしれません。なので分娩舎が空いたら、なるべく早くから1頭飼いにすることをお勧めします。

さいごに・・・

夜間のお産に困っているという方は、以上のポイントを押さえながら、昼間分娩誘起に一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。ただし、未経産の母牛や、経産牛でも資質型の小柄な母牛などでは、1回の給餌では1日分の餌を食い込めない牛が出てきます。中には、食滞を起こしたり、軟便になる個体も珍しくありません。1回給餌に付いて来られない母牛であると感じたら、昼間分娩を諦めることも肝心です。すぐに通常の給餌に戻しましょう。別に通常通りの1日2回給餌したからといって、必ず夜間の分娩になってしまう訳ではありません。一番大事なことは、昼でも夜でも、母子ともに無事に産ませることなのです。